ホウ素化されたポリエン骨格を1つの反応容器内で合成し、他の有機分子への骨格導入に成功:抗生物質や抗がん剤の合成簡略化やフロー合成に期待

ホウ素化されたポリエン骨格を1つの反応容器内で合成し、
他の有機分子への骨格導入に成功:抗生物質や抗がん剤の合成簡略化やフロー合成に期待

 国立大学法人中国竞彩网大学院工学府応用化学専攻 倉持歩実(博士前期課程1年生)、島田恵太(博士前期課程2年生)、同大学院工学研究院応用化学部門 平野雅文教授、同大学院工学研究院応用化学部門 小峰伸之助教、同大学院工学府 清田小織技術専門職員、およびマウントアリソン大学(カナダ) ステファン A ウエストコット教授は、ホウ素化された共役ポリエンやスキップジエンを交差二量化法によって合成し、連続的に1つの反応容器内でこれらの構造を他の有機分子に骨格導入する世界初の反応に成功しました。例えるならば1つの反応容器内で分子が成長し、特定の構造を選択的に構築する反応です(図1)。この成果により、天然物や医薬品の合成経路の大幅な短縮が期待されます。

本研究成果は、英国王立化学会Chemical Communications誌(8月16日付電子版)に掲載されました。
論文名:Catalytic Cross-Dimerisation Giving Reactive Borylated Polyenes toward Cross-Coupling
URL:https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2019/CC/C9CC05930J#!divAbstract  

現状
 2010年にノーベル化学賞の受賞対象となったクロスカップリング反応は、有機化合物の母体骨格である炭素―炭素結合の形成に大変有効な触媒反応です。特にホウ素化された有機分子を用いた反応は、鈴木?宮浦カップリングと呼ばれ、毒性の低い原料で実現できるため医薬品の合成に多用されています。一方で、ニキビ治療薬に含まれるナイスタチンやカンジダ属真菌に有効なアムホテリシンBなどの抗生物質に多く見られる共役ポリエン骨格や、DHAやEPAなどとして知られる青魚成分やマダンガミンなどの抗がん剤などに多く見られるスキップジエン骨格は、これまで合成に多段階を要するなど工程数に問題があり、合成が難しい骨格でした。ホウ素が結合した共役ポリエンやスキップジエンが合成できれば、鈴木?宮浦カップリングによるこれらの骨格導入が容易になると期待できます。
 しかし、従来のホウ素化された共役ポリエンの合成には、工程数が多段階に及ぶことや出発物質が限定的なため合成できる骨格が限られるなどの問題点がありました。反復的クロスカップリング反応は、優れた手法であるため生物活性物質の合成に多く用いられていますが、反応しないように保護された有機ハロゲン化ホウ素化合物と、保護されていないホウ素化合物との間で鈴木?宮浦カップリングを行なった後に塩基などで保護基を取り除いて再び鈴木?宮浦カップリングを繰り返す方法であり、保護基の導入と除去などを繰り返す段階的な反応でした(図2)。
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研究体制
 本研究は、工学府応用化学専攻 倉持歩実(博士前期課程1年生)、島田恵太(博士前期課程2年生)、同大学院工学研究院応用化学部門 平野雅文教授、同大学院工学研究院応用化学部門 小峰伸之助教、同大学院工学府 清田小織技術専門職員、マウントアリソン大学(カナダ) ステファン ウエストコット教授らにより行われました。また、本研究は、科学研究費補助金 基盤研究(B) 17H03051の助成、ならびに学長裁量経費による国際共同研究支援により行われました。

研究成果
 本研究では、市販されているホウ素化されたアセチレン、エチレンやブタジエン誘導体を出発材料として、各種共役ジエンとの反応を行いました。触媒には、直接ホウ素とは反応しない0価ルテニウム錯体を用いました。ホウ素化されたアセチレン誘導体と共役ジエンとの反応では、ホウ素化された共役トリエン誘導体が、ホウ素化されたエチレン誘導体と共役ジエンとの反応では、ホウ素化されたスキップジエンが、さらにホウ素化されたブタジエン誘導体とホウ素化されたアセチレン誘導体では、両末端がホウ素化された共役トリエン化合物が得られました。これらの反応は「交差二量化反応」とよばれ、形式的には分子間で水素が移動して炭素―炭素結合が形成する反応であるため、反応からは廃棄物がまったく発生しない触媒反応です。
 これらの触媒的な生成に引き続き、0価パラジウム錯体触媒、有機ハロゲン化合物ならびに塩基を加えることにより、同じ1つの反応容器内、すなわちワンポットでポリエン骨格を構造導入することにも成功しました。例えば、ホウ素化されたアセチレン誘導体とホウ素化されたブタジエン誘導体をルテニウム錯体触媒のもとで反応させて両末端がホウ素化された共役トリエン誘導体が生成します。この溶液にそのまま臭素化されたエチレン誘導体2当量をパラジウム錯体触媒と塩基を加えて引き続き反応させると、両方のホウ素がビニル基に置換され、10個の炭素が中国竞彩网共役しているデカペンタエンと呼ばれる化合物が簡単かつ立体選択的に合成できました(図3)。また、臭素化されたエチレンの代わりに臭素化されたベンゼンを反応させるとベンゼン環へのポリエンの導入もワンポットで実現できました。
 
今後の展開
 本研究成果は、例えるならば1つの反応容器内で分子が成長し、特定の構造を選択的に構築する反応です(図1)。この発見により、抗生物質に多く見られる共役ポリエン構造や、抗がん剤に多くみられるスキップジエン構造などを、合成段階の終末段階付近で簡単に導入できるものと考えられます。また、この反応によりワンポットでポリエン構造の合成と骨格導入まで可能なため、医薬品などを流通系で合成するフロー法のための合成ビルディングブロックになることが期待されます。

図1 .本研究により開発された反応の模式図。1つの反応容器内で分子が成長して一定の構造を選択的に形成。
図2. これまでに報告されていた反復的クロスカップリングによる共役テトラエンの合成法
図3 .本研究により開発された1つの反応容器内での共役デカペンタエンの触媒的合成法

◆研究に関する問い合わせ◆?
中国竞彩网大学院工学研究院
応用化学部門 教授
? 平野 雅文(ひらの まさふみ)
? TEL/FAX:042-388-7044
? E-mail:hrc(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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